自主的な勉強会等は労働時間か?

従業員が所定労働時間外に行う自主的な勉強会等が労働時間に当たるかどうかは、よくご相談をお受けする事項であり、非常に悩ましい問題と言えます。そこで今回は、その判断基準について、労働時間の基本的な考え方と合わせてご紹介させて頂きます。


1. 労働時間・休憩時間とは?

  • 労働時間 → 使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間
  • 休憩時間 → 労働から離れることを保障されている時間(6時間超→45分、8時間超→60分)

例えば、手待ち等の拘束時間、昼休みの強制的な来客当番等は、労働から離れることを保障されておらず、使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間と考えられますので労働時間に当たり、着替え、後片づけなどの労働に付随する時間も労働時間に当たるとされています。


2. 自主的な活動について

いくら従業員が所定労働時間外に、自主的に行う活動(例:勉強会等)といっても、その内容によっては労働時間として取り扱わなければならないケースがあります。労働時間に当たるかどうかは次の3つの基準(観点)から総合的に判断されますのでご留意ください。

(1)場所的拘束性

会社施設内で自主的な勉強会等が行われる場合は、場所的な拘束性があり、黙示に参加を強要していると捉えられやすくなりますので注意が必要です。

(2)業務との関連性

業務との関連性が強ければ当然、労働時間となる可能性が高まります。例えば、売上や顧客拡大につながるような企画への取組み等は業務との関連性があると判断されやすくなるでしょう。

(3)義務づけの程度

勉強会等への参加について明確な指示がない場合であっても、例えば、次のような実態があれば、それは自主的な活動とは言えず強制参加、つまり労働時間と考えられますのでご注意ください。

  1. 参加の有無が直接的・間接的に人事考課の対象となっている。
  2. 人事(昇進・昇格等)において参加者が優遇されたり、多少なりとも影響や配慮されている。
  3. 不参加者に制裁等の不利益な取り扱いがある。




身元保証書の提出拒否など

従業員の素性や経歴を保証するとともに、その従業員が故意または過失によって会社に何らかの損害を与えた場合に連帯して賠償してもらうため、入社時に身元保証人を立ててもらっているという会社は多いのではないでしょうか。

そのような会社に役立つ、身元保証契約等に関する注意点をまとめてみましたので、ご参考となれば幸いです。


1. 極度額(上限額)の定めがなければ無効に!

2020年4月の民法改正により、「個人保証人の保護の強化」を目的として、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効となりました(改正民法465条の2)。

入社時の身元保証契約は、従業員が会社に損害を与えた場合に本人と連帯してその賠償を行うという連帯保証契約であり、保証人にとっては、従業員がいつ、どのような責任を負うのかを予測することができないことから根保証契約に当たります。

そのため、身元保証契約を締結する際は、賠償の上限額(極度額)を定めておかなければならなくなりました。


2. 極度額の定め方

極度額の定め方については、例えば、これまでの身元保証書に極度額を追記することが考えられます。

「同人の身元を保証し、同人が貴社に損害を与えた場合、貴社が被った損害を賠償する旨を確約します(極度額○○○○円)。」

なお、実務上は、「極度額をいくらにするか」が問題となります。

損害に対するリスクヘッジという観点からは、あまりに低額にしてしまうと実効性がなくなりますし、一方、あまりに高額にしてしまうと、連帯保証人が躊躇するなど手続きが進まないおそれがあります。

具体的に金額を明記する(「極度額は1千万円とする。」など)のがベストですが、例えば「極度額は従業員の月給の○○ヶ月分とする。」などと定めることも考えられます。


3. その他の注意点

上記1.や2.以外に、身元保証契約において必ず押さえておきたい2点についてご紹介します。

(1)有効期間・自動更新

契約の有効期間は原則として3年とされており、当事者間で特に定めた場合に限り最長5年とすることが認められています。

よく誤解されているのが、自動更新についてですが、自動更新は一切認められておらず、身元保証契約を継続させたい場合は、新たに契約を結び直す必要があります。

(2)事前通知

身元保証契約に基づき保証人に損害賠償を請求するには、必ず事前(従業員に業務上不適任または不誠実な事跡があって、これがために保証人の責任を引き起こす恐れがあることを知ったとき)の保証人への通知が必要となります。

過去には、保証人へ事前に通知することなく、いきなり損害賠償を請求したケースで、当該請求が認められなかった裁判例がいくつも存在します。


4. 身元保証書の提出拒否について

それでは最後に、タイトルでもある、従業員が身元保証書の提出を拒否した場合の会社の対応について述べたいと思います。

(1)採用取り消し事由として就業規則に定めておく

従業員は、労働基準法その他の法令において、身元保証書を提出しなければならないといった義務はありません。

かといって、会社はその提出を求めてはいけないという法令もありません。

そこで、会社としては、入社時の提出書類として身元保証書を定めている場合に、その提出を拒否したときは採用を取り消すことがあるといった旨を就業規則に定めておいても問題ないと言えるでしょう。

これは、社内共通のルールを一人だけ守らないといったことを認めていては、組織としての統制がとれなくなってしまう恐れがあるからです。

(2)申立書で代用する

身元保証人は、2名(うち1名は親族、1名は親族以外で独立の生計を営む者)とするケースがよくありますが、その条件によっては、本当に然るべき保証人を立てることができないといったことも起こり得ます。

そのような場合は、保証人を立てることができない事情を記した申立書の提出をもって身元保証書の提出に代え、身元保証書を提出した者との均衡を保つといった措置をとることも考えられ、そのようにすることで、意図せぬ採用取り消しを回避することにもつながります。




働き方改革をわかりやすく解説

マスメディアを通じて”働き方改革”というワードをよく見聞きしますが、具体的にはどのようなことを指しているのか、今一つ理解が難しいのではないでしょうか・・・。

そこで今回は、働き方改革の背景や施策等について、セミナーや研修会などでお話している内容(骨子)をご紹介させて頂きます。

独自の見解になりますが、理解促進の一助となれば幸いです。


1. 働き方改革の背景 ~生産年齢人口の減少

少子高齢化の進行により、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少し、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています。

生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されるため、現在「少子化対策」や「社会保険の適用拡大」などと共に「働き方改革」が推し進められています。

高齢化の推移と将来推計

(出典)内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」

P.F.ドラッカー氏いわく人口動態は”既に起こった未来”であり、昨今、人手不足との声が各所から聞こえてきますが、むしろ本当の人手不足はこれから本格化していくものと考えられます。


2. 働き方改革の主な施策

働き方改革のポイントは、いかに労働力の不足を緩和するかで、その施策としては大きく3つに分類され、それぞれの分類の中に各個別具体策があると考えると頭の中がすっきり整理できるかも知れません。

(1)離職防止&定着率向上

  • 賃上率のアップ(2.0% → 3.0%へ)
  • 勤務間インターバル制度(終業から次の始業まで一定時間を確保する制度)の導入
  • 時間外労働の上限規制(年720時間・単月100時間未満、複数月平均80時間)
  • 年次有給休暇の時季指定義務化(年間5日)
  • パワハラ・メンタルヘルス対策の強化
  • 同一労働同一賃金

(2)働き手の確保

  • 外国人労働者の受入拡大
  • 障害者の就労支援(法定雇用率2.3% → 2026年度2.7%へ段階的引上げ)
  • 高齢者の就業促進
  • 子育て・介護等との両立支援
  • テレワーク(在宅勤務等)、副業・兼業の推進

(3)労働生産性の向上

  • デジタル化の推進・押印省略 etc.




1年変形の残業代

今回は、1年単位の変形労働時間制(以下、「1年変形」といいます)を採用する場合の残業代の計算方法をはじめとして、その他に注意しておきたい点について解説します。

1年変形の仕組み、メリット・デメリット等は厚生労働省のパンフレットなどでご確認いただけるとして、この記事では実務において見逃しがちで、特に注意しておきたい点についてまとめてみましたので、ぜひご一読いただければ幸いです。


1. 残業代の計算方法

(1)1日の法定時間外労働

労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間(MAX10時間)、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

(2)1週の法定時間外労働

労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週はその時間(MAX52時間)、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(上記(1)で時間外労働となる時間を除く)

(3)対象期間の法定時間外労働

対象期間の法定労働時間総枠(40時間×対象期間の暦日数÷7)を超えて労働した時間(上記(1)または(2)で時間外労働となる時間を除く。)


2. 途中採用者・途中退職者等の取り扱い

対象期間より短い労働をした者に対しては、使用者はこれらの労働者に実際に労働させた期間を平均して週40時間を超えた労働時間について、割増賃金を支払う必要があります。

割増賃金の清算を行う時期は、次のとおりとなります。

  • 途中採用者→対象期間が終了した時点
  • 途中退職者→退職した時点

また、転勤等により対象期間の途中で異動がある場合についても清算が必要になることがあります。

<割増賃金を支払う時間の計算式>

下記1.-2.-3.

  1. 実労働期間における実労働時間
  2. 実労働期間における法定労働時間の総枠「(実労働期間の暦日数÷7日)×40時間」
  3. 実労働期間における 上記1.(1)、(2)の時間外労働


3. その他の注意点

(1)労働日数の限度

1年変形の対象期間における労働日数の限度は、原則として1年間に280日となります。(*対象期間を3ヶ月以内とする場合は制限がありません。)

(2)連続労働日数

1年変形を採用する場合、連続して労働できる日数は「最長6日(6連勤)」までとなります。ただし、特定期間(特に業務が繁忙な期間)を設定すれば、1週間に1日の休日が確保できる日数「最長12日(12連勤)」とすることができます。

(3)休日の振替

通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用できませんが、労働日の特定時に予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行う場合には、次の要件を満たしていなければなりません。

  1. 就業規則で休日の振替がある旨規定を設け、あらかじめ休日を振り替えるべき日を特定して振り替えること
  2. 対象期間(特定期間を除く)において、連続労働日数が6日以内となること
  3. 特定期間においては、1週間に1日の休日が確保できる範囲内(連続労働日数が12日以内)にあること

また、例えば、同一週内で休日をあらかじめ8時間を超えて労働を行わせることとして特定していた日と振り替えた場合については、当初の休日は労働日として特定されていなかったものであるため、当該日に8時間を超える労働を行わせることとなった場合には、その超える時間については時間外労働とすることが必要となります。


4. 東京労働局パンフレット(参考)

以上のように1年変形においては細かなルールが数多くありますが、東京労働局のパンフレット(導入の手引)が詳しく説明されていますので、より理解を深めたい方は下図をクリックして是非ご参照ください。




1年変形のカレンダー(例)

1年単位の変形労働時間制(以下、「1年変形」といいます)とは、繁忙期に合わせて休日数を調整(繁忙期→休日減、閑散期→休日増)しながら、1年を平均すれば1週当たり所定労働時間が40時間以内に収まるようにする制度です。

ただ、繁忙期の有無にかかわらず、1週でも週所定労働時間が40時間を超える週があれば、その週は直ちに法令違反となってしまいますので、1年変形を採用しなければならなくなるケースもあります。

いずれにしても、1年変形を採用するには所轄労働基準監督署に届出が必要で、その際に添付するカレンダーの作成方法についてのご質問が多く、今回はその辺のポイントについて述べてみます。


1. 統一の「年間休日カレンダー」を作成する方法

製造業によく見られる最も一般的な方法で、下図のような会社で1つ(もしくは部門別に数パターンに分けるケースもある)の年間休日カレンダーを作成する方法です。

年間休日カレンダー


2.「月別所定休日一覧表+月別休日管理表」を作成する方法

主に小売業やサービス業では、一斉に休日を取得することができず、シフト制により交替で休日を取得ケースが多々あります。

その場合、休日数は同じでも具体的な休日は個人別に異なってきますので、上記1.のような年間カレンダーでは実態と乖離してしまいます。

そのような場合は、「(1)月別所定休日一覧表」において1年分の月別の休日数を定めておき、「(2)月別休日管理表」で個人別に具体的な休日を管理するのが有効な手法と言えます。(*書式名は法定のものではありませんので、任意に変更しても大丈夫です)

労働基準監督署へは、例えば、4月始まりの会社等であれば「(1)+(2)の4月分」を添付書類として提出することとなります。

(1)月別所定休日一覧表

年月 歴日数 所定休日数 内)法定休日 所定労働日数 所定労働時間
2023年4月 30日 8日 5日 22日 176:00
5月 31日 9日 4日 22日 176:00
6月 30日 6日 4日 24日 192:00
7月 31日 9日 5日 22日 176:00
8月 31日 12日 4日 19日 152:00
9月 30日 9日 4日 21日 168:00
10月 31日 8日 5日 23日 184:00
11月 30日 8日 4日 22日 176:00
12月 31日 9日 5日 22日 176:00
2024年1月 31日 10日 4日 21日 168:00
2月 29日 8日 4日 21日 168:00
3月 31日 9日 5日 22日 176:00
366日 105日 52日 261日 2088:00
1日所定労働時間8時間の場合

月別の休日数は年間105日を下回らない限り、自社の繁閑に合わせて調整可能です。(*上記はあくまで一例です)

上記(1)の例では1週平均39:57(=2088:00÷(365÷7))となります。

(2)4月度休日管理表

4月は8日の所定休日数と設定しているので、これを個人別に割り振り、5月以降も毎月同じ作業(月別に設定した所定休日数を個人別に割り振る)を行います。

月日 曜日 Aさん Bさん Cさん Dさん
4月1日
2日
3日
4日 有休
5日
6日
7日
8日
9日
10日
11日
12日 有休
13日
14日
15日
16日
17日
18日
19日
20日 有休
21日
22日
23日
24日
25日 有休
26日
27日
28日
29日
30日
休日計
休日計は有休を除く




障害者雇用納付金制度とは

今回は障害者雇用の基礎知識として、障害者雇用率と障害者雇用納付金制度についてご紹介します。


1. 障害者雇用率(原則)

2021(R3)年3月1日から民間企業の障害者雇用率は2.3%と定められています。(*一部の業種では”除外率”が適用される場合があります。)

そして、障害者のカウント方法は週所定労働時間、障害の種類、程度等によって次のようになっています。

週所定労働時間 30時間以上 20時間以上30時間未満
身体障害者
(重度)

(2)
0.5
(1)
知的障害者
(重度)

(2)
0.5
(1)
精神障害者 0.5※

※精神障害者である短時間労働者で、下記1.かつ2.を満たす方については、1人をもって1人とみなされます。

  1. 新規雇入れから3年以内の方又は精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の方
  2. 令和5年3月31日までに、雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した方


2. 障害者雇用納付金制度

常用雇用労働者数が100人を超える事業主は障害者雇用納付金の徴収や、逆に調整金の支給対象となり得ます。また、100人以下であっても奨励金の支給対象となることがあります。

下図は、令和5年度版の案内パンフレット(抜粋)ですが、クリックすると制度内容の詳細や申告手続についてご確認いただけますので、今後、対象となりそうな事業主様におかれましては、一度ご確認されることをお勧めいたします。

障害者雇用納付金制度




経歴詐称と既往症の申告義務

今回は、時々ご相談を受ける”経歴詐称”について解説いたします。


1. 経歴詐称について

経歴詐称でいう経歴の範囲は、一般的には学歴、職歴、免許・資格、犯罪歴などが挙げられます。

これらの経歴を入社前の面接などで偽って入社し、後でその事実が発覚すると、就業規則において経歴詐称を懲戒解雇事由として定めている会社では、懲戒解雇とする場合があります。

経歴詐称については、これまでにも幾多の裁判で争われてきましたが、『(独)労働政策研究・研修機構』ではそのポイントについて次のようにまとめており、参考になると思われます。

  1. 雇用関係は、労使の信頼関係を基礎とする継続的な関係であるから、使用者は、雇用契約において、労働者に、労働力評価に関わる事項だけではなく、企業秩序の維持に関係する事項の申告を求めることができる。
  2. 雇用契約の締結に際し、使用者が、必要かつ合理的な範囲において、労働力の評価に関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項の申告を求めた場合には、労働者は、信義則上真実を告知しなければならない。
  3. 最終学歴は、労働力の評価だけでなく企業秩序の維持にも関わる事項であるから、学歴を高く偽るだけでなく、低く偽ることも経歴詐称に当たり、懲戒処分の対象となる。
  4. 履歴書の賞罰欄における「罰」とは、一般には確定した有罪判決を指すため、公判係属中の事実については、特に申告を求められない限り、労働者はこれを告知する必要はない。


2. 既往症の申告義務について

既往症とは過去に罹った病気のうち既に完治したものをいい、既往歴とは過去に罹った病歴のことをいいます。(本記事においては厳格に区別せず、ほぼ同義として使います。)

労働者の既往症については、個人情報保護法における要配慮個人情報に当たるため、使用者側としては必要かつ合理的な理由がなければ、採用面接時に聞くことはできないとされています。

例えば、自動車の運転を伴う業務で”てんかん”の発作が過去に起きたことがないか聞くことや、また、その他にも業務内容によっては色覚・聴覚・味覚等の異常が業務に支障をきたすおそれがあれば、これらについて採用面接時に質問の主旨をきちんと応募者に伝えたうえで、病名を特定して既往歴がないか聞くことは、問題ないと言えるでしょう。

つまり、漠然と病歴について質問するのはNGですが、採用後に業務を円滑に遂行できるか否かについて必要最小限で確認するのはOK(必要かつ合理的な理由に当たる)と考えられます。

なお、労働者(応募者)側からすると、既に完治しており業務に支障をきたすおそれのない病歴については、あえて積極的に使用者側に申告する義務はないと考えられますが、使用者側には安全配慮義務がありますので、ただちに業務に支障はないものの、場合によっては支障が生じる可能性があるのであれば、入社後に問題とならないよう採用面接時に伝えておいた方がよい場合があるかも知れません。




明示すべき労働条件の追加

2024年4月から労働者の募集の際などにおける明示すべき労働条件が追加されます。

追加される明示事項3つは、労働基準法に基づく、採用の際に締結する労働契約における明示義務と同様の改正で、募集~採用にかけて一貫性がなければ、後のトラブルの原因となりかねませんので注意が必要です。

以下、リーフレットをご参照ください。


労働条件の明示①
労働条件の明示②



労災による通院時間

今回は、労災によって通院する時間は労働時間として取り扱うべきか否かについて解説いたします。


1. 通院時間の取り扱い

業務時間内に通院する時間は、たとえそれが労災による傷病の治療を目的としたものであったとしても、事業主の支配下にある時間とは言えませんので、労働時間には当たりません。(労働時間として取り扱わなければならないとする法令等の根拠はありません)

したがって、通院に要する時間分の賃金を控除しても『ノーワーク・ノーペイの原則』により、法令違反とはなりません。

ただし、傷病の原因がそもそも”労災”であるという事情を考慮して、賃金を控除しないとしても、それは法令を上回る労働者に有利な取り扱いとなりますので、問題ないと言えるでしょう。


2. 休業補償給付について

通院によって、その時間分の賃金が控除された場合に休業補償給付は支給されるのかといったご質問を受けることがありますが、休業補償については、また別の問題となります。

労災による休業補償給付の原則的な支給要件は次の通りとなります。

  1. 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため
  2. 労働することができないため
  3. 賃金を受けていない

という3要件を満たす場合に、その第4日目から、休業(補償)給付と休業特別支給金が支給されます。

  • 休業(補償)給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数
  • 休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)× 休業日数

なお、休業の初日から第3日目までを待期期間といい、この間は業務災害の場合、事業主が労働
基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うこととなります。(副業・兼業していた場合は、これと異なることがありますのでご注意ください)

また、通院のため、労働者が所定労働時間のうち一部を休業した場合は、給付基礎日額から実際に労働した部分に対して支払われる賃金額を控除した額の60%に当たる額が支給されることとなります。

つまり、通院時間がある程度長時間に及んで控除額が大きくなった場合(実働賃金が給付基礎日額を下回った場合)、上記の3要件を満たしていれば、休業補償給付が支給される可能性があります。

もっとも、出勤している時点で、「2. 労働することができないため」という医師の証明が得られるかが問題となりますが。

いずれにしましても、その他ご不明点などございましたら下記パンフレットをご参照いただければ幸いです。


休業補償給付




資格取得費用の返還義務

労働基準法第16条(以下、本記事においては「労基法16条」といいます)では、労働者の債務不履行等に際して、実損害の如何に関わらず、あらかじめ一定額の違約金や損害賠償額を定めることによって労働者の退職の自由を実質的に制限する足止め策を禁止する趣旨のことを定めています。

そして、この労基法16条に関して、近年、海外留学や技能研修についての費用貸与がよく行われたりしますが、その際、労基法16条とは切り離すべく貸与契約や金銭消費貸借契約を締結するケースが一般化しています。

ただ、例えば、一定期間の勤続を返済免除条件とする貸与契約や金銭消費貸借契約の場合、形式的には労働契約とは別個のものとしていても、その契約が労働契約の解約の自由を実際上拘束し、一定期間の就労を強制する実態にあるか否かがよく争点となります。

裁判例としては、会社が海外留学等を職場外研修の一つと位置づけ、業務命令として派遣を命ずるもので、研修費返還の合意が研修終了後の勤務の確保を目的とし期間内の退職者に対する制裁の実質を有するものであれば、労基法16条に違反とするとする判決(新日本証券事件ー東京地判平10・9・25)があります。

一方、留学の応募や留学先の選択が労働者の自由意思に基づくものであり、業務命令に基づくものでない場合には同留学を業務と見ることはできず、労働者は労働契約とは別に留学費用返還債務を負っていたに過ぎないとして、同合意は労基法16条が禁止する違約金等には該当しないとする判決(長谷工コーポレーション事件ー東京地判平9・5・26)などもあります。

さらに、古典的な事案である看護学生についての修学資金貸与事案において、修学費用貸与契約は、将来の看護師としての労働契約の締結および将来の退職の自由を制限する目的であり、就労を強制する経済的足止め策であると認定して、労基法16条に違反し無効する判決(和幸会事件ー大阪地判平成14・11・1)があります。

このように、今日までの裁判例は、研修費用などの貸与契約等が労基法16条に違反するかどうかを、

  1. 研修・留学費用に関する労働契約と区別した金銭消費貸借の有無
  2. 研修・留学参加の任意性・自発性
  3. 研修・留学の業務性の程度
  4. 返還免除基準の合理性
  5. 返済額・方式の合理性

等を総合的に勘案して判断されており、そこでは貸与契約等の対象である研修等が「職業訓練の一環」か「自己が負担すべき研修」かが基準とされ、貸与契約等の目的の「業務性」の認定が決め手とされる傾向にあります。

なお、タクシー運転手の普通第二種免許の取得について、コンドル馬込交通事件(東京地判平20・6・4)判決は、「第二種免許の取得は業務に従事するうえで不可欠であり、そのための研修は会社の業務と具体的関連性を有するが、同免許は個人に付され、会社を退職しても利用できるという個人的利益があることからすると、免許の取得費用は本来的には免許取得希望者個人が負担すべきものであり、本件研修費用返済条項によって返還すべき費用が20万円に満たないことからすると、費用免責のための就労期間が2年であったことが、タクシー運転手の自由意思を不当に拘束し労働関係の継続を強要するものとは言い難く、本件条項は労基法16条に違反するものではない。」と判示しました。

資格取得等の費用の返還義務については、諸事情を考慮して労基法16条に抵触するか否か判断する必要がありますが、今回の記事はその際のご参考となれば幸いです。




一般的な年間所定休日数とは

労働力人口(働き手)が減少する中で働き方改革も進み、企業の年間所定休日数も以前に比べて随分と増えてきた感があります。

休日数が少ないと採用(特に新卒採用)に差し支えると言われますが、それでは一体、年間所定休日数はどれぐらいが妥当なのでしょうか・・・?

今回は、日頃よくお聞きするこうした疑問の声に対し、2022年の統計データを1つご紹介させて頂きます。

規模 1日
所定労働時間
年間
所定労働時間
年間
所定休日数
300人未満 7時間50分 1915時間58分 120.1日
300人以上1000人未満 7時間49分 1907時間06分 121.0日
1000人以上 7時間48分 1906時間35分 120.4日
規模計 7時間49分 1909時間23分 120.5日
出所:労務行政研究所「労働時間等に関する実態調査」(2022年度)

ちなみに、1年間は52週(365日÷7日)ですので、土・日を完全に休みにすると104日(2日×52週)の休日となり、そこに祝祭日等(16日~17日程度)を加えると年間約120日の休日数となります。

あとは夏季と年末年始にそれぞれ3日程度の休日を加えると年間休日数は125日~126日程度になる計算となります。

中小企業においてそこまで年間休日数を設定することは並大抵なことではないと考えられますが、上表の統計データからしても、何とか120日に近づけていくようにしなければ、他社に後れをとってしまうかも知れませんね・・・。




振替休日の再振替

最近お受けしたご質問の中に、「振替休日により振り替えた休日をさらに振り替えることはできますか?」といったものがありました。

いわゆる”振替休日の再振替”に関するご質問ですが、これについて法令等では特に定めがありません。

したがって、所定の振替休日取得のための手続を踏めば、一応は可能であると考えられます。

ただ、振り替える日は、「振り替られた日以降、できる限り近接している日が望ましい」という行政指導がありますので、同一賃金計算期間内や、遅くとも翌賃金計算期間までとするなど、元々の休日からあまり離れ過ぎないようにしなければならないでしょう。

なお、再振替を安易に認めてしまうと、再々振替が横行するなど、実務上も振替休日の管理や割増賃金の計算が煩雑となり、不適切な労務管理にもつながってしまう懸念が生じます。

適切な労務管理を行うためには、再振替は認めないとするか、認めたとしても翌賃金計算期間までとするなど一定の歯止めを掛けるのが望ましいかも知れません。

ちなみに、再振替を認めないとする場合は、もし振替休日に労働させる必要が生じた場合、それは休日労働として割り切るのが適切な措置と言えるでしょう。




能力不足等による解雇

思ったような働きが見られず、従業員を解雇したいとのご相談が後を絶ちません。

従業員を解雇するには、それ相当の合理的な理由があり、適正な手続を踏まなければ不当解雇となってしまう恐れがあります。(そもそも、従業員は解雇に値すると思っていないケースが殆どであると言えます)

無用な労働トラブルを避ける意味でも、以下のポイントを押さえておきましょう。


1. 解雇の要件

従業員を解雇するには、次の2つの基本的な要件があります。

  1. やむを得ない理由があること。
  2. 30日以上前の予告又は30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うこと。

「やむ得ない理由」とは、例えば、経営難に陥って事業所を閉鎖する場合や、逆に、労働者の心身の状態が業務に耐えられないと判断される場合などがそれに当たります。

また、30日以上前の予告については、①雇用期間が1ヶ月以内の日雇労働者、②2ヶ月以内の臨時労働者、③4ヶ月以内の季節労働者、④試用期間中の労働者で14日以内の者は不要とされています。


2. 勤務不良や能力不足等を理由として解雇する場合

特に注意を要するのが、勤務不良や能力不足等を理由として解雇する場合ですが、このような場合は、

客観的に見て、現在の職務において改善の見込みがなく、他に活用の可能性もなく、解雇しなければ企業の事業運営に支障をきたす。

といった事情が必要であるとされています。

具体的には次のような事情が求められますのでご留意ください。

【勤務不良・能力不足等を理由とする解雇で求められる具体的な事情】

  • 勤務態度、非違行為が重大で解雇に値するものであること。
  • 不良事実が多数回に及ぶこと。
  • 能力不足、適性、成績は相対的評価によるものではなく、絶対評価により解雇に値するものであること。
  • 再教育や指導及び他の職務に配置転換をして能力発揮の機会を与えても改善が見込めないこと。

なお、能力不足等に当たるかどうかについては、本人の年齢や職歴や経歴なども判断要素と考えられており、例えば、本人が20歳か30歳台で職務経験が少ない場合と、高度の専門性や能力を買われてヘッドハンティングされた場合では、後者の方が使用者の期待値が高くなるのは当然で、その分、解雇は有効と判断されやすいと言えます。