身元保証書の提出拒否など
従業員の素性や経歴を保証するとともに、その従業員が故意または過失によって会社に何らかの損害を与えた場合に連帯して賠償してもらうため、入社時に身元保証人を立ててもらっているという会社は多いのではないでしょうか。
そのような会社に役立つ、身元保証契約等に関する注意点をまとめてみましたので、ご参考となれば幸いです。
1. 極度額(上限額)の定めがなければ無効に!
2020年4月の民法改正により、「個人保証人の保護の強化」を目的として、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効となりました(改正民法465条の2)。
入社時の身元保証契約は、従業員が会社に損害を与えた場合に本人と連帯してその賠償を行うという連帯保証契約であり、保証人にとっては、従業員がいつ、どのような責任を負うのかを予測することができないことから根保証契約に当たります。
そのため、身元保証契約を締結する際は、賠償の上限額(極度額)を定めておかなければならなくなりました。
2. 極度額の定め方
極度額の定め方については、例えば、これまでの身元保証書に極度額を追記することが考えられます。
「同人の身元を保証し、同人が貴社に損害を与えた場合、貴社が被った損害を賠償する旨を確約します(極度額○○○○円)。」
なお、実務上は、「極度額をいくらにするか」が問題となります。
損害に対するリスクヘッジという観点からは、あまりに低額にしてしまうと実効性がなくなりますし、一方、あまりに高額にしてしまうと、連帯保証人が躊躇するなど手続きが進まないおそれがあります。
具体的に金額を明記する(「極度額は1千万円とする。」など)のがベストですが、例えば「極度額は従業員の月給の○○ヶ月分とする。」などと定めることも考えられます。
3. その他の注意点
上記1.や2.以外に、身元保証契約において必ず押さえておきたい2点についてご紹介します。
(1)有効期間・自動更新
契約の有効期間は原則として3年とされており、当事者間で特に定めた場合に限り最長5年とすることが認められています。
よく誤解されているのが、自動更新についてですが、自動更新は一切認められておらず、身元保証契約を継続させたい場合は、新たに契約を結び直す必要があります。
(2)事前通知
身元保証契約に基づき保証人に損害賠償を請求するには、必ず事前(従業員に業務上不適任または不誠実な事跡があって、これがために保証人の責任を引き起こす恐れがあることを知ったとき)の保証人への通知が必要となります。
過去には、保証人へ事前に通知することなく、いきなり損害賠償を請求したケースで、当該請求が認められなかった裁判例がいくつも存在します。
4. 身元保証書の提出拒否について
それでは最後に、タイトルでもある、従業員が身元保証書の提出を拒否した場合の会社の対応について述べたいと思います。
(1)採用取り消し事由として就業規則に定めておく
従業員は、労働基準法その他の法令において、身元保証書を提出しなければならないといった義務はありません。
かといって、会社はその提出を求めてはいけないという法令もありません。
そこで、会社としては、入社時の提出書類として身元保証書を定めている場合に、その提出を拒否したときは採用を取り消すことがあるといった旨を就業規則に定めておいても問題ないと言えるでしょう。
これは、社内共通のルールを一人だけ守らないといったことを認めていては、組織としての統制がとれなくなってしまう恐れがあるからです。
(2)申立書で代用する
身元保証人は、2名(うち1名は親族、1名は親族以外で独立の生計を営む者)とするケースがよくありますが、その条件によっては、本当に然るべき保証人を立てることができないといったことも起こり得ます。
そのような場合は、保証人を立てることができない事情を記した申立書の提出をもって身元保証書の提出に代え、身元保証書を提出した者との均衡を保つといった措置をとることも考えられ、そのようにすることで、意図せぬ採用取り消しを回避することにもつながります。