前回の「社会保険料の減免等」では、制度上減免が認められており、申請手続きをすればすぐにでも実行できる方法をご紹介しましたが、今回ご紹介する節減方法は、社内規程等の改定等を伴うケースも考えられますので、事前の十分な検討と従業員の理解が不可欠なものが多いと言えます。
個別の方法論に入る前に、まずは前提知識として、社会保険料の算出方法を押さえておいて下さい。
〔参考〕 社会保険料の算出方法
- 報酬(賃金、給料、俸給、手当、賞与など名称は問わない)の月額を、一定の幅で区分した「標準報酬月額表」に当てはめ、各人の標準報酬月額を決定します。
- これに保険料率を掛けて社会保険料を算出します。
- 健康保険は1級(58,000円)~47級(1,210,000円)までの47等級、厚生年金保険は1級(98,000円)~30級(620,000円)までの30等級に区分されています。
- 臨時に受けるもの及び3ヶ月を超える期間ごとに受けるものは「標準賞与額」として、毎月に受ける報酬とは別に保険料(保険料率は同じ)が掛かります。
- これらの保険料を会社と従業員で折半して負担します。
以上が、社会保険料算出の大きな流れとなります。
それでは、いよいよ個別具体的な社会保険料の節減方法についてご紹介していきます。
<目次>
- 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の節減方法
- 労働保険料(労災保険料・雇用保険料)の節減方法
注) このレポートは 2007年11月7日現在 の法令に基づき作成されています。
1. 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)の節減方法
- 2ヶ月以内の有期雇用契約を締結する
2ヶ月以内の期間を定めて雇用されるものは、社会保険に加入させなくてもよいことになっています。ただし、契約を更新するなどして2ヶ月以上雇用することになった場合は、雇用開始時点に遡って加入する必要があるので注意して下さい。
- 退職日は月末より前の日にする
従業員が月末に退職すると、社会保険の資格喪失日は翌月の1日になります。社会保険料は、退職日の翌日(資格喪失日)の属する月の前月分まで発生するため、退職日の属する月は保険料を支払うことになります。そこで退職日を月の末日より前に定めると、退職月の前月分までの保険料で済むことになります。賃金締切日を毎月20日など月末以外にしている事業所では、退職日はできる限り賃金締切日とされるのがよいでしょう。
- 退職で消滅する年次有給休暇を買い上げる
これは、例えば有給休暇を消化するために退職日が翌月になると、社会保険料が1ヵ月分余分に掛かってしまうからです。
- 退職金制度を活用する
退職金には社会保険料が掛かりませんので、給与の一部を退職金積立にまわすと、積立分の社会保険料が節約できることになります。ただし、前払いの退職金は社会保険の対象となるため注意が必要です。
- 休職期間を短くする
私傷病などによる休職期間については、社会保険料は免除されませんので、そういった期間はできる限り短い方がよいでしょう。
- 育児休業月変を有効活用する
- 4月~6月の残業代を減らす
- 定期昇給の時期を4月から7月に変更する
標準報酬月額は、原則として4月から6月までの3ヶ月間の報酬を平均して決定し、その年の9月から1年間は、その標準報酬月額で固定します。多くの事業所では昇給月を4月に定めていますが、それですと昇給し高くなった報酬で1年間の標準報酬月額が決定されてしまいます。保険料のことだけ考えると、昇給月は7月とした方が有利でしょう。
- 賃金表などを工夫し、標準報酬等級を考えた月給とする
例えば、月給を350,000円から349,990円に改定するとします。その差はわずか10円ですが、年間保険料の額は約58,000円も違ってきます。これは、25等級(35万円以上37万円未満)で36万円の標準報酬月額として計算されるところを、10円の差で24等級(33万円以上35満円未満)となり、34万円の標準報酬月額で計算されるからです。
- 賞与を年1回支給とする
毎月の報酬以外に、賞与に対しても保険料は掛かりますが、保険料の対象となる賞与には1回当りの上限額が定められています。
健康保険料 : 1年間の上限540万円
厚生年金保険料 : 1回につき150万円(同月内に2回以上支給されるときは合算した額で適用)
したがって、年2回で合計150万円以上の賞与を受ける従業員であれば、年1回にまとめて支給すると、上限額を超える部分には保険料が掛からないため、厚生年金保険料が節減できることになります。ちなみに、健康保険については、上限額は年間540万円ですので、これ以上の賞与を受けることのできる従業員は少数派だと思われます。
- 小額の賞与なら臨時手当として支給する
- 年俸制にする
年収が800万円を超えたあたりから、賞与を支払わず月々の報酬(賞与分を含めた年俸÷12)だけで支払った方が年間の保険料は低くなります。これは年俸を12ヶ月で割った額が、厚生年金の標準報酬月額の上限額(62万円)を上回るようになるからです。
- 福利厚生を見直す
福利厚生的、実費弁済的なものは、一定の条件を満たした場合に報酬に含める必要がなくなり、標準報酬月額の等級を低く抑えることができます。その結果、保険料を少なくすることができます。
〔例1〕 食費補助3分の1未満に減らす。
〔例2〕 住宅手当から借上げ社宅に変更する。
- 健康保険組合に加入する
業種や地域によっては、「協会けんぽ」より低い保険料率が設定されている健康保険組合があったりします。そういった加入が可能な健康保険組合がないか確認されるとよいでしょう。
- 非適用の個人事業を活用する
- 常勤役員を非常勤役員にする
2. 労働保険料(労災保険料・雇用保険料)の節減方法
- メリット制を活用する (労災保険料)
- 被保険者となれない人を活用する (雇用保険料)
例えば、31日未満の短期雇用者、週20時間未満の短時間労働者、昼間学生のアルバイトなどが考えられます。
- 64歳以上の高齢者を雇用する (雇用保険料)
毎年4月1日を基準に、64歳以上の高齢者は雇用保険料が免除されます。
あとがき
今回ご紹介した社会保険料の節減方法は、従業員の立場からすると、必ずしも有利とはならないものがあります。
例えば、将来もらえる老齢厚生年金(報酬比例部分)が減ってしまうということにもなり兼ねませんので、ただ闇雲に社会保険料を下げればよいというわけではありません。
その点、よくご理解したうえで参考にして頂ければ幸いです。
https://nakazono-office.net/report/24-20071107社会保険料の節減方法