経歴詐称と既往症の申告義務

今回は、時々ご相談を受ける”経歴詐称”について解説いたします。


1. 経歴詐称について

経歴詐称でいう経歴の範囲は、一般的には学歴、職歴、免許・資格、犯罪歴などが挙げられます。

これらの経歴を入社前の面接などで偽って入社し、後でその事実が発覚すると、就業規則において経歴詐称を懲戒解雇事由として定めている会社では、懲戒解雇とする場合があります。

経歴詐称については、これまでにも幾多の裁判で争われてきましたが、『(独)労働政策研究・研修機構』ではそのポイントについて次のようにまとめており、参考になると思われます。

  1. 雇用関係は、労使の信頼関係を基礎とする継続的な関係であるから、使用者は、雇用契約において、労働者に、労働力評価に関わる事項だけではなく、企業秩序の維持に関係する事項の申告を求めることができる。
  2. 雇用契約の締結に際し、使用者が、必要かつ合理的な範囲において、労働力の評価に関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項の申告を求めた場合には、労働者は、信義則上真実を告知しなければならない。
  3. 最終学歴は、労働力の評価だけでなく企業秩序の維持にも関わる事項であるから、学歴を高く偽るだけでなく、低く偽ることも経歴詐称に当たり、懲戒処分の対象となる。
  4. 履歴書の賞罰欄における「罰」とは、一般には確定した有罪判決を指すため、公判係属中の事実については、特に申告を求められない限り、労働者はこれを告知する必要はない。


2. 既往症の申告義務について

既往症とは過去に罹った病気のうち既に完治したものをいい、既往歴とは過去に罹った病歴のことをいいます。(本記事においては厳格に区別せず、ほぼ同義として使います。)

労働者の既往症については、個人情報保護法における要配慮個人情報に当たるため、使用者側としては必要かつ合理的な理由がなければ、採用面接時に聞くことはできないとされています。

例えば、自動車の運転を伴う業務で”てんかん”の発作が過去に起きたことがないか聞くことや、また、その他にも業務内容によっては色覚・聴覚・味覚等の異常が業務に支障をきたすおそれがあれば、これらについて採用面接時に質問の主旨をきちんと応募者に伝えたうえで、病名を特定して既往歴がないか聞くことは、問題ないと言えるでしょう。

つまり、漠然と病歴について質問するのはNGですが、採用後に業務を円滑に遂行できるか否かについて必要最小限で確認するのはOK(必要かつ合理的な理由に当たる)と考えられます。

なお、労働者(応募者)側からすると、既に完治しており業務に支障をきたすおそれのない病歴については、あえて積極的に使用者側に申告する義務はないと考えられますが、使用者側には安全配慮義務がありますので、ただちに業務に支障はないものの、場合によっては支障が生じる可能性があるのであれば、入社後に問題とならないよう採用面接時に伝えておいた方がよい場合があるかも知れません。