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派遣法改正案と適正化(H22)
労働社会保険レポート!

今回は労働者派遣法(以下「派遣法」といいます。)の改正案や、現行法における派遣適正化の動きなどについてレポートします。

まず、改正案については当初、平成22年6月の通常国会で成立が見込まれていましたが、結局、成立には至らず次の国会での継続審議となりました。

廃案ではなく継続審議となっていることから改正される方向であるのは間違いないと考えられますので、その点を踏まえてご覧ください。

また、現行法の中で重点的に指導監督が行われていたり、実際に違法性が問われたりしているケースについても解説していきますので、労働者派遣に関係しておられる方は、ぜひ参考にして頂ければと思います。

<目次>

  1. 派遣法改正案の内容
  2. 派遣適正化の動き
  3. 違法派遣事例

注) このレポートは 2010年7月31日現在 の法令に基づき作成されています。


1. 派遣法改正案の内容

いわゆる「派遣切り」の問題などで注目された労働者派遣ですが、今回の改正案で抜本的な見直しが図られようとしています。

1-1. 事業規制の強化

  • 登録型派遣の原則禁止(専門26業務等は例外)
  • 製造業務派遣の原則禁止(常用雇用(1年を超える雇用)の労働者派遣は例外)
  • 日雇派遣(日々又は2ヵ月以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)の原則禁止
  • グループ企業内派遣の8割規制、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れる事を禁止

これらは、いわゆる「派遣切り」の多発、雇用の安定性に欠ける派遣形態の横行という派遣労働者の雇用の不安定さの解消が目指されています。

1-2. 派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善

  • 派遣元事業主に、一定の有期雇用の派遣労働者につき、無期雇用への転換推進措置を努力義務化
  • 派遣労働者の賃金等の決定にあたり、同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮
  • 派遣料金と派遣労働者の賃金の差額の派遣料金に占める割合(いわゆるマージン率)などの情報公開を義務化
  • 雇入れの際に、派遣労働者に対して一人当りの派遣料金の額を明示

これらにより派遣労働者の不透明な待遇決定、低い待遇の固定化の解消が目指されています。

1-3. 違法派遣に対する迅速・的確な対処

  • 違法派遣の場合、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす
  • 処分逃れを防止するため労働者派遣事業の許可等の欠格事由を整備

これらにより偽装請負などの違法派遣の増加、行政処分を受ける企業の増加の対処が目指されています。

1-4. 法律の名称・目的の変更

  • 法律の名称に「派遣労働者の保護」を明記する
  • 目的規定に「派遣労働者の保護・雇用の安定」を明記する

2. 派遣適正化の動き

平成22年3月から4月にかけて各都道府県労働局において「専門26業務派遣適正化プラン」に基づく指導監督が実施されました。

このプランに基づく適正化の対象は、いわゆる「派遣切り」で問題となった製造業務の派遣元(派遣会社)ではなく、事務関連業務で派遣実績の多い派遣元が中心となっています。

内容は、派遣可能期間の制限を免れることを目的に、専門26業務と称して違法派遣を行っていないか指導監督するもので、特に「事務用機器操作」や「ファイリング」の解釈を歪曲したり、拡大したりすることで派遣受入期間の制限のある「一般事務」であるにも関わらず、契約上は派遣受入期間の制限のない「事務用機器操作」や「ファイリング」としていないかがチェックされています。

2-1. 派遣受入期間の制限

物の製造、軽作業、一般事務など
原則1年(過半数労働組合等の意見を聴いた上で3年間まで延長可能)
専門26業務など
なし

2-2. 専門26業務とは?

  1. ソフトウェア開発
  2. 機械設計
  3. 放送機器操作
  4. 放送番組等出演
  5. 事務用機器操作
  6. 通訳・翻訳・速記
  7. 秘書
  8. ファイリング
  9. 調査
  10. 財務処理
  11. 貿易(取引文書作成)
  12. デモンストレーション
  13. 添乗
  14. 建築物清掃
  15. 建築設備運転・点検・整備
  16. 受付・案内・駐車場管理
  17. 研究開発
  18. 事業の実施体制の企画・立案
  19. 書籍等の製作・編集
  20. 広告デザイン
  21. インテリアコーディネーター
  22. アナウンサー
  23. OAインストラクター
  24. テレマーケティングの営業
  25. セールスエンジニアの営業
  26. 放送番組等における大道具・小道具

3. 違法派遣事例

平成22年6月に日本年金機構(東京事務センター)において、人材派遣会社2社が専門26業務の「事務用機器操作」であるとして派遣労働者を入力業務に従事させていましたが、この入力業務は数字や文字の単純入力で「事務用機器操作」には当たらず、派遣期間1年の「一般業務」であるにも関わらず、1年を超えて労働者派遣を行っていたとして所轄の東京労働局が是正指導していたというケースがありました。

厚生労働省所管の法人でもこのようなことが起こっていますので、一般事務と混同されやすい「事務用機器操作」や「ファイリング」については改めて注意が必要であると考えられます。


あとがき

今回は、派遣法改正案の内容と現行法の中で特に注意すべき点について解説しました。

改正案の内容を見ると、規制が強化され一昔前に逆戻りするといった感がありますが、一方では抜け穴も多いのではないかとの議論もあります。

例えば、改正案では登録型派遣を原則禁止していますが、専門26業務については例外としています。

専門26業務については、専門的であるが故に常用雇用の代替のおそれが少ないことから派遣可能期間の制限がないこととなっていますが、本文中でも述べたように「事務用機器操作」の解釈を歪めてしまうと、従来通り違法派遣を続けてしまうことも考えられます。

派遣法改正については、最終的にはどのように落ち着くのか現段階では何とも言えませんが、いずれにしても現行法においても注意しなければならない点が含まれています。

違法派遣となれば、少なからず事業運営に支障をきたすことが考えられますので、何らかの不安や疑問を抱えているようであれば、ぜひ早めに最寄りの労働局(職業安定部)や専門家(社会保険労務士など)にご相談されてはいかがでしょうか…。