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今回は、「就業規則の不利益変更」についてレポートします。
就業規則は、従業員数10名以上になると監督官庁への作成・届出義務を負うことになりますが、一旦作成した後は、従業員に不利となる変更(不利益変更)は一切できないと思われています。
しかし、過去の判例では、変更された就業規則の内容に「合理性」があれば、たとえ個々の従業員が変更に同意しなかったとしても拘束できる。つまり、不利益変更が認められたケースがあります。
では、どういった場合に就業規則の不利益変更が認められたのか、今回はその点について解説したいと思います。
注) このレポートは 2009年8月17日現在 の法令に基づき作成されています。
判例では、次の7つの要素を対象として合理性判断のポイントとしています。
つまり、就業規則の変更に対する「業務上の必要性の程度」と「労働者が受ける不利益の内容・程度」を比較衡量し、その変更内容に「社会的相当性」があるか等が加味され判断されることになります。
特に、従業員の過半数以上で組織する労働組合がある場合には、その賛成が重要な意味を持つと考えられています。
不利益の内容は、その重要性が一般化されており、次の通りレベル付けができると考えられています。( 小 → 大 )
レベル1 : 福利厚生
レベル2 : 明示を義務付けられた労働条件
レベル3 : 労働時間・休日・休暇
レベル4 : 賃金・退職金
つまり、レベルが大きいほど重要性は大きく、不利益な変更に関して慎重にならざるを得ないと言えます。
なお、就業規則に明文化されていなくても上記の事項において慣行的事実がある場合は、一種の継続の期待権があるとされ、これが不利益変更の対象になる場合もあります。
不利益の程度については、個別の事案ごとに判断されることになります。
上記2.でも述べたように、不利益変更の中でも特に注意が必要なのが「賃金」に関するものです。
以下では、一般的な例を紹介します。
合理性判断のポイントは、上記1.の7要素に加えて、「賃金の総原資が減少するかどうか」が重要であり、総原資が減少しない場合には、合理性が認められやすくなると考えられています。
さらに、
の手続的な整備も判断のポイントとなってきます。
過去の最高裁の判例に、
である場合は、「高度の業務上の必要性」があるとして賃金切下げもやむを得ないとしたものがあります。
ただし、経営難により賃金切下げの必要性がある場合には、従業員全体の応分負担とするべきであり、高年齢者など特定の層のみを対象とすることには合理性がないとしていますのでご注意ください。
職能資格制度上の等級を下げる意味での降格に対しては、上記1.の7要素に加えて、就業規則上の明確な根拠条文(降格基準等)が必要とされています。
安易な就業規則・労働条件の不利益変更は、従業員の既得権を奪い、モラールダウンにつながりかねませんので十分な注意が必要です。
しかし、一方で、企業が存続していくためには、そうせざるを得ない場面がおとずれるのも事実です。
今回お届けするレポートにおけるキーワードは「合理性」です。
ここでいう「合理性」とは、社会一般的にみて妥当であり、従業員も十分納得のいくものであるということを意味していると考えます。
企業が存続発展するためには、使用者側と労働者側の「信頼関係」(=納得)が欠かせません。
法律や過去の判例から物事を捉えることも大切ですが、その背景にある人間関係にも、ぜひ目を向けて頂きたいと思います。