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今回は、「事業場外労働のみなし労働時間制」についてレポートします。
昨今、労働環境の変化(ホワイトカラーの増大など)に伴って、労働時間管理は難解で、煩雑なものとなっています。
労働時間管理は、労働基準法や行政通達等によって、細かい決まりごとがたくさんありますが、あまり知られていなかったり、誤って認識されていたりして、労働トラブルに発展してしまうケースが散見されます。
今回は、そんな中で、いわゆる外回りの営業職など、労働時間の把握が困難で算定し難い場合に、実務上どのように取り扱ったらよいかについて、「みなし労働時間制」という制度をご紹介します。
この制度は、適正に運用すると労働時間管理を容易にしてくれる便利な制度なのですが、運用を間違えると、後になって裁判で多額の残業代支払いが命じられるといった例もあります。
事業場外での労働が多いという従業員が、たくさんいらっしゃる事業所様においては、ぜひ参考にして頂ければ幸いです。
注) このレポートは 2010年11月4日現在 の法令に基づき作成されています。
事業場外労働のみなし労働時間制とは、外回りの営業職のように労働時間の全部又は一部を事業場外で労働した場合において、使用者の指揮監督が及ばないため労働時間の把握や算定が困難なときに、原則として「所定労働時間労働したものとみなす」とする制度で、労働基準法によって定められています。
つまり、この制度を採用した場合は、実際の労働時間にかかわらず、原則として所定労働時間を労働したものとして、労働時間を算定することができるようになります。
業務を遂行するために、所定労働時間を超えて労働することが通常必要となるケースが考えられますが、このような場合には、当該業務の遂行に通常必要とされる時間について、労働したものとみなされます。
この「当該業務の遂行に通常必要とされる時間」とは、客観的・平均的にみて業務を遂行するのに必要とされる時間をいい、労働基準法第38条の2では、『所定労働時間を超えて労働することが通常必要となるケースで労使協定を締結した場合には、その協定で定めた時間労働したものとみなす。』との規定が設けられています。
ちなみに、この労使協定は、所轄労働基準監督署長に届け出なければなりませんが、協定で定める時間が法定労働時間(一般的な事業所では1日8時間)以下である場合には、届け出る必要はありません。
なお、労使協定を定めた場合において、事業場内での労働が混在しているケースでは、「事業場内の労働時間は別途把握しておき、労使協定している事業場外の労働時間と合算したものをその日の労働時間としなければならない」とされていますのでご注意ください。(昭和63.3.14基発第150号参照)
これは、労使協定で定める労働時間(=当該業務の遂行に通常必要とされる時間)とは、あくまで把握や算定が困難な事業場外での労働時間のことを指しており、合算すると所定労働時間を超えるのに、算定可能な事業場内での労働時間を含めて所定労働時間を労働したものとみなすとするのは不合理であるとの考え方があるからです。
みなし労働時間制の適用により算定される労働時間が、法定労働時間を超える場合には、時間外労働を行うことになりますので、法定労働時間を超えた部分については、別途、割増賃金の支払いが必要となります。
事業場外で労働した場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及ぶ場合には、労働時間の算定が可能ですので、みなし労働時間制の対象とはなりません。
つまり、以下のように、使用者が定期的な連絡を義務づけていたり、指示したりして、業務の進捗状況が把握できるような場合は、労働時間の算定が十分に可能と考えられ、この制度は適用できません。
近年は通信手段が発達し、例えば、従業員が携帯電話を常に所持しながら業務を遂行するという姿は、ごく当たり前のこととなっています。
そんな中で、今回ご紹介した「事業場外労働のみなし労働時間制」を採用できるか否かの見極めポイントは、使用者の指揮監督が及ぶのかどうかという点にあります。
言い換えると、この制度が採用できるのは、携帯電話等は常に所持していたとしても、現場での実際の業務遂行は、従業員の裁量に委ねられており、使用者が逐一、指示命令や管理監督することが困難であるケースに限られてくることになります。
最近では、旅行ツアーの添乗業務をめぐって裁判で争われたケースがありますが、問題となったのは、事業主側の指揮監督が及ぶにもかかわらず、実態をねじ曲げ、残業代の抑制手段としてこの制度を採用してしまったことだと言えます。
指揮監督が及ぶか否かについては、実際には判断が難しい、グレーな部分ではありますが、問題が起きたときには、必ず実態に即して運用されていたかどうかが問われますので、この制度の採用を検討される場合は、その点に十分ご留意いただければと思います。