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今回は、「管理監督者の判断基準」についてレポートします。
いわゆる 名ばかり店長 の問題は、皆様ご存知のように日本マクドナルドに端を発して、小売・飲食チェーン店等のあちらこちらで顕在化しました。
店舗を預かる店長等は、労働基準法でいう「管理監督者」に該当するという見解が、これまで企業の中にあったわけですが、一連の騒動の中で、行政官庁からはことごとく NO! が突きつけられました。
その教訓を活かして、この度、店長等が管理監督者に当るかどうかの判断基準(行政通達)が、あらためて発信されましたのでご紹介します。(*読みやすくするため、原文に若干の修正を加えています。)
小売・飲食チェーン以外の業種であっても今後、これらの判断基準は参考になると思いますので、ぜひ参考にして頂ければ幸いです。
注) このレポートは 2008年10月19日現在 の法令に基づき作成されています。
小売業、飲食業等において、いわゆるチェーン店の形態により相当数の店舗を展開して事業活動を行う企業における比較的小規模の店舗においては、店長等の少数の正社員と多数のアルバイト・パート等により運営されている実態がみられるが、この店舗の店長等については、十分な権限、相応の待遇等が与えられていないにもかかわらず労働基準法第41条第2号に規定する「管理監督者」として取り扱われるなど不適切な事案もみられる。
店舗の店長等が管理監督者に該当するか否かについては、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であって、労働時間、休憩及び休日に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にあるかを、
を踏まえ、総合的に判断することとなるが、今般、店舗の店長等の管理監督者性の判断に当たっての特徴的な要素について、店舗における実態を踏まえ、最近の裁判例も参考として、下記のとおり整理した。
店舗に所属する労働者に係る採用、解雇、人事考課及び労働時間の管理は、店舗における労務管理に関する重要な職務であることから、これらの「職務内容、責任と権限」については、次のように判断されるものであること。
店舗に所属するアルバイト・パート等の採用(人選のみを行う場合も含む)に関する責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
店舗に所属するアルバイト・パート等の解雇に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
人事考課(昇給、昇格、賞与等を決定するため労働者の業務遂行能力、業務成績等を評価することをいう)の制度がある企業において、その対象となっている部下の人事考課に関する事項が職務内容に含まれておらず、実質的にもこれに関与しない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
店舗における勤務割表の作成又は所定時間外労働の命令を行う責任と権限が実質的にない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
管理監督者は「現実の勤務態様も、労働時間の規制になじまないような立場にある者」であることから、「勤務態様」については、遅刻・早退等に関する取扱い、労働時間に関する裁量及び部下の勤務態様との相違により、次のように判断されるものであること。
遅刻・早退等により減給の制裁、人事考課での負の評価など不利益な取扱いがされる場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
ただし、管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理が行われることから、これらの観点から労働時間の把握や管理を受けている場合については管理監督者性を否定する要素とはならない。
営業時間中は店舗に常駐しなければならない、あるいはアルバイト・パート等の人員が不足する場合にそれらの者の業務に自ら従事しなければならないなどにより長時間労働を余儀なくされている場合のように、実際には労働時間に関する裁量がほとんどないと認められる場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
管理監督者としての職務も行うが、会社から配布されたマニュアルに従った業務に従事しているなど労働時間の規制を受ける部下と同様の勤務態様が労働時間の大半を占めている場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
管理監督者の判断に当たっては「一般労働者に比し優遇措置が講じられている」などの賃金等の待遇面に留意すべきものであるが、「賃金等の待遇」については、基本給、役職手当等の優遇措置、支払われた賃金の総額及び時間単価により、次のように判断されるものであること。
基本給、役職手当等の優遇措置が、実際の労働時間数を勘案した場合に、割増賃金の規定が適用除外となることを考慮すると十分でなく、当該労働者の保護に欠けるおそれがあると認められるときは、管理監督者性を否定する補強要素となる。
一年間に支払われた賃金の総額が、勤続年数、業績、専門職種等の特別の事情がないにもかかわらず、他店舗を含めた当該企業の一般労働者の賃金総額と同程度以下である場合には、管理監督者性を否定する補強要素となる。
実態として長時間労働を余儀なくされた結果、時間単価に換算した賃金額において、店舗に所属するアルバイト・パート等の賃金額に満たない場合には、管理監督者性を否定する重要な要素となる。
特に、当該時間単価に換算した賃金額が最低賃金額に満たない場合は、管理監督者性を否定する極めて重要な要素となる。
(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号)
法第41条第2号に定める「監督若しくは管理の地位にある者」とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。具体的な判断にあたっては、下記の考え方によられたい。
法に規定する労働時間、休憩、休日等の労働条件は、最低基準を定めたものであるから、この規制の枠を超えて労働させる場合には、法所定の割増賃金を支払うべきことは、すべての労働者に共通する基本原則であり、企業が人事管理上あるいは営業政策上の必要等から任命する職制上の役付者であればすべてが管理監督者として例外的取扱いが認められるものではないこと。
これらの職制上の役付者のうち、労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない、重要な職務と責任を有し、現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法第41条による適用の除外が認められる趣旨であること。従って、その範囲はその限りに、限定しなければならないものであること。
一般に、企業においては、職位と資格によって人事管理が行われている場合があるが、管理監督者の範囲を決めるに当たっては、かかる資格及び職位の名称にとらわれることなく、職務内容、責任と権限、勤務態様に着目する必要があること。
管理監督者であるかの判定に当たっては、上記のほか、賃金等の待遇面についても無視し得ないものであること。この場合、定期給与である基本給、役付手当等において、その地位にふさわしい待遇がなされているか否か、ボーナス等の一時金の支給率、その算定基礎賃金等についても役付者以外の一般労働者に比し優遇措置が講じられているか否か等について留意する必要があること。なお、一般労働者に比べ優遇措置が講じられているからといつて、実態のない役付者が管理監督者に含まれるものではないこと。
全国の労働基準監督署において、管理監督者の範囲に問題があると考えられる店舗66店(企業数53社)に対し、平成20年4月~6月に実施。
いかがでしたでしょうか…?
管理監督者とは、そもそも「経営者と一体的な立場にある者」と言われています。
ですので、中小企業においては、その判断要素の一つとして、例えば、経営会議のような意思決定の場に出席している者かどうかも挙げられると思いますし、実際に筆者は常々、顧問先様などへそのようにアドバイスしたりしています。
いずれにしても、この問題は、「管理監督者」という法律上の解釈と、実際の企業における管理職の捉え方のギャップが問題を大きくしたと言えます。
今回の通達は、法律上の解釈を修正するものではなく、管理職の捉え方をあらためて整理したものですが、この内容への納得性は別として、企業としては、例えば、店長を管理監督者として扱わないなど、実態に即して必要な見直しを進めなければならないでしょう。
ただし、本編の最後にあるように、店長は一様に管理監督者として認められないか? というと、55人中10人は管理監督者と認められていますので、その点もお見逃しなく。要は、役職の名称ではなく、実態が大事ですから…。