兵庫県尼崎市西立花町3-4-1 パークビル201
TEL 06-6430-6318(営業時間:平日9:00~18:00)
今回は、平成24年改正(平成25年4月1日施行)の「高年齢者雇用安定法」についてレポートします。
この度は、平成16年に続く改正となりますが、当時の内容を前提知識として押さえておかなければ理解しづらいところです。
映画で言えば、パート1を見ていなければ、パート2はわかり難いといった感じです。
そこで、まずは平成16年の改正ポイントについて解説した後、今回の法改正について解説するという流れをとっています。
今回のレポートは、平成24年10月~平成25年3月にかけて行ってきたセミナーレジメをベースに、重要なエキスを抽出して作成しいます。
高年齢者雇用にまつわるトラブル回避という観点から、読者皆様の一助となれば幸いです。
注) このレポートは 2013年3月12日現在 の法令に基づき作成されています。
高年齢者雇用安定法におけるポイントは第9条といえますが、平成16年の改正法により次の3つの「高年齢者雇用確保措置」が義務化されました。
第9条
定年の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置のいずれかを講じなければならない。
〔用語解説〕
再雇用制度 → 定年に達した従業員を一度退職させ、再度雇用する制度
勤務延長制度 → 従業員が定年年齢を迎えても退職させず、引き続き雇用し続ける制度
平成16年の法改正では、事業主がいきなり65歳まで定年を延長することや、65歳までの継続雇用制度を導入することは厳しすぎるため、緩和措置として、次のスケジュールに沿って継続雇用義務が段階的に引き上げられることとなりました。
平成18年4月~平成19年3月 | 62歳定年又は62歳までの継続雇用制度の導入 |
平成19年4月~平成22年3月 | 63歳定年又は63歳までの継続雇用制度の導入 |
平成22年4月~平成25年3月 | 64歳定年又は64歳までの継続雇用制度の導入 |
平成25年4月~ | 65歳定年又は65歳までの継続雇用制度の導入 |
平成16年の法改正では、もう一つの緩和措置が用意されました。
それは、事業主側は継続雇用の対象となる従業員を再雇用する際に一定の基準を定め、この基準に適合した従業員だけを再雇用するというものでした。
また、この基準は、原則として従業員の過半数を代表する者との書面による協定によって定めることが必要とされていますが、労使協定を締結するために努力したが、協議不調に終わった場合は、代わりに就業規則により基準を定めることが認められていました。
ただし、この代替措置は、改正法施行から大企業は3年間(平成21年3月31日まで)、中小企業は5年間(平成23年3月31日まで)の時限措置となっていたため、現在は認められていません。
平成16年の法改正では、基準に適合しない従業員の再雇用を拒否し、再雇用を希望する者全員を継続雇用の対象とする必要がなかったのですが、平成24年の法改正では、この緩和措置が廃止されることとなりました。
これにより事業主は、平成25年4月1日以降に継続雇用の対象となる従業員が希望すれば、その全員を再雇用しなければならないこととなりました。 ※下記の経過措置に要注意!
引き続き、経過措置が設けられ、継続雇用の対象となる従業員の再雇用について何らかの基準を定めていた場合は、次の期間について、指定された年齢以上の従業員に対して、引き続きその基準を適用できる(有効とする)ものとされました。
平成25年4月1日~平成28年3月31日まで | 61歳以上の者 |
平成28年4月1日~平成31年3月31日まで | 62歳以上の者 |
平成31年4月1日~平成34年3月31日まで | 63歳以上の者 |
平成34年4月1日~平成37年3月31日まで | 64歳以上の者 |
例えば、平成25年4月1日~平成28年3月31日までの間は、61歳以上の従業員を再雇用する場合は、これまで労使協定よって定めた継続雇用の対象となる基準が引き続き適用できます(有効となります)。希望者全員を再雇用する必要はありません。
つまり、平成25年4月1日の時点で、既に60歳定年を迎え再雇用されているような従業員については、次回も継続雇用の対象とするかどうかについて、労使協定で定めた基準に従って判定できます。
逆に言うと、平成25年4月1日以降に、新たに60歳の定年を迎えるような従業員については、最初の再雇用契約の際は労使協定で定めた基準を適用できない(無効である)ため、希望者全員を再雇用する必要があります。そして、2回目以降の再雇用契約について、当該契約締結の時期とその従業員の年齢に応じて、労使協定で定めた基準を適用できるか否かが決まります。
この期間と年齢は、昭和28年4月2日生まれ以降の男性から老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が61歳へ引き上げられることに関係しています。60歳から老齢厚生年金が支給されない従業員については、年金が支給されるまでの間、事業主側に希望者全員の再雇用を義務づけ、収入に空白期間が生じることの無いようにしています。
ここでの内容は、非常に難解に思われるかも知れませんので、簡単にまとめると次のようになります。
平成24年の法改正により、この継続雇用制度には、定年を迎えた自社の従業員を関係グループ企業等(特殊関係企業)で引き続き雇用する契約を結ぶ措置も含まれることとなりました。
これまでは、高年齢者雇用確保措置に違反している事業主に対しては、厚生労働大臣が必要な指導、助言をし、それでも違反している状態が続けば、高年齢者雇用確保措置を講ずべきことを勧告するというレベルにとどまっていました。
平成25年4月1日からは、この勧告に従わない事業主については、厚生労働大臣はその旨を公表することができることになり、事業主名が公表されるという社会的制裁措置規定が設けられました。
継続雇用の対象となる従業員の基準については、厚生労働省通達において例示されています。
具体的には…?
厚生労働省によれば、継続雇用制度や定年の引上げ・廃止といった高年齢者雇用確保措置によって確保されるべき雇用の形態については、必ずしも従業員の希望に合致した職種・労働条件による雇用を求めているものではありません。
そして、高年齢者の安定した雇用を確保するという法の趣旨を踏まえたものであれば、常用のみならず、短時間勤務や隔日勤務なども含めて多様な雇用形態を含むものであるとしています。
つまり、継続雇用後の労働条件については、法の趣旨を踏まえたものであれば、雇用に関するルールの範囲内で、労働時間、賃金、待遇などについて、事業主と従業員の間で自由に決めることができるわけです。
60歳定年制を定めている事業主が、継続雇用制度の一つである「再雇用制度」を採用した場合、従業員は60歳で一度定年退職となり、その後、事業主と新しい労働条件を結び直すことになります。
新しく労働契約を結びますから、過去の賃金、役職、待遇等はご破算となり、労働条件の提示をもう一度最初から行うこととなります。
高年齢者雇用安定法は、あくまで65歳までの雇用の場を提供することを求めており、新たな労働条件が従業員の希望に合わず、結果的にその従業員が、その後の再雇用を拒んだとしても、法違反とはなりません。
よくお受けする質問に、「法律に基づいて継続雇用している者を解雇できるのですか…?」というものがあります。
解雇は、事業の継続が困難になったり、本人に何らかの責があるときに行われますが、ここには60歳定年前、60歳定年後(継続雇用者)を区別する決まりはありません。
つまり、継続雇用の仕組みは設けていても、就業規則に定めている解雇の要件に該当すれば、継続雇用者といえども解雇の可能性はあり得るということになります。(あくまで、解雇権の濫用に当たらなければですが…。)
以上、ご参考まで。