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今回は、実務でもよくご相談を受ける「兼業の禁止」についてレポートします。
兼業とは、ある会社の業務に従事しながら、また別の会社の業務に従事する、いわゆる「掛け持ち」のことをいいますが、果たして、こうした行為は、法律上はどこまで許されるのでしょうか?
言い換えると、会社は、給与(残業代)や賞与が減ってしまった従業員が、業務終了後や休日にアルバイト等をしたいと申し出てきた場合に、どこまで認めなければならないのでしょうか?
実は、この問題には、状況に応じて判断されるというグレーなところがあります。
本レポートは、その辺について、これまでの裁判例を引用しながら整理してみましたので、参考となれば幸いです。
注) このレポートは 2010年8月27日現在 の法令に基づき作成されています。
民間企業の労働者は、公務員と違って法律上、兼業が禁止されていません。(禁止規定が存在しません)
労働者は、就業規則や個別の労働契約に基づいて、1日のうち定められた時間については労働を提供することが求められますが、これらの規則や契約で定められた時間外までは、本来、どのように使おうと労働者の自由ということになります。
次の裁判例もあります。
一般に労働者は労働契約に定められた時間、場所において契約に定められた労働を提供する義務があるが、時間外においては特約なき限り他の者のために働いてはならない義務はない。
(国際タクシー事件 昭和59.1.20)
ただ、多くの会社では、就業規則において「副業は、使用者の承認(又は許可)を必要とする」など、何らかの形で特約を設けているのが一般的と言えます。
では、なぜ多くの会社では、兼業の禁止規定(特約)を設けているのでしょうか?
この点について、労働者は会社に対して労働契約上、次のような義務を負っているので、この義務をきちんと果たしてもらうために設けているものと考えられています。
実際、裁判例においても、兼業を全面的に禁止することはさておき、一定の範囲で制限することは認めています。(小川建設事件、日本放送協会事件など)
では、会社としては、労働者に義務を果たしてもらうために、どこまで兼業を認め、又は認めないとすることができるのでしょうか。
兼業を行う場合、就業時間が重なるようなものは認められないことは言うまでもありませんが、就業時間が重ならないものであったとしても、労務提供に支障をきたすような場合には、これを承認しないとすることができたケースがあります。
労働者がその自由なる時間を精神的、肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労務提供のための基礎的条件をなすものである。
(小川建設事件 昭和57.11.19)
との裁判例によると、次の日の業務に支障をきたすような場合は、兼業を認めなくてもよいと考えられます。
裁判例に、社員が競業会社(ライバル関係となる会社)の代表取締役に就任し、その競業会社の業務に従事したことが「重大な義務違反行為」であるとしたものがあります。
(東京メディカルサービス・大幸商事事件 平成3.4.8)
したがって、競業避止義務に反する兼業は認めなくてもよいと考えられますが、実務的に問題となってくるは、その兼業が競業に当るかどうかの判断であると言えます。
裁判例では「制限の必要性」、「期間」、「地域」、「背信性」などを争点としていますので、規定の運用に際しては、これらを参考に、状況に応じて判断せざるを得ないと言えます。
兼業することにより、会社の社会的信用や名誉を毀損するような場合は、兼業を認めないとする判断は、合理的であると言えます。
例えば、日本放送協会事件では、兼業の承認について、
労働を提供すべき義務が履行不能ないし不完全になるおそれの有無やその程度、事業又は業務の内容や性格、特にNHKの社会的評価に与える影響等の諸般の事情を総合して判断すべきである。
としています。
兼業について、裁判所は、有効又は無効を一律に判断することはありません。
既述のように、兼業によって労務の提供に支障がないか、職場秩序の維持に悪影響がないか等を総合的に判断していますので、当然、その程度や状況によって結論は異なってくるでしょう。
つまり、あくまでも個別の事案ごとに判断されることとなります。
就業規則等において兼業の禁止規定を設けることは、その必要性、合理性から一定の範囲で認められることにはなりますが、だからといって、これはあくまで特約といった性格のものですので、状況によっては全部が全部、認められるわけではないという点を、しっかり認識しておかなければなりません。
従業員の兼業を認める場合に、
等について、その 責任の所在 が問題になることがあります。
例えば、従業員が過労で倒れた場合や、A社(自社)の業務を終えてB社(他社)へ向かう途中に災害に遭った場合などがそれに当ります。
したがって、兼業を認める場合の典型例として、従業員の経済上の理由やスキルアップを図ること等がありますが、安易にそうした要素だけで判断してしまうと、後で思わぬトラブルが起こる可能性があることも考えておかなければなりません。
兼業を認めるか否かは、最終的には会社ごとに判断することになりますが、その際には、ぜひトラブル回避の観点もお忘れなく…。