身元保証書の提出拒否など

従業員の素性や経歴を保証するとともに、その従業員が故意または過失によって会社に何らかの損害を与えた場合に連帯して賠償してもらうため、入社時に身元保証人を立ててもらっているという会社は多いのではないでしょうか。

そのような会社に役立つ、身元保証契約等に関する注意点をまとめてみましたので、ご参考となれば幸いです。


1. 極度額(上限額)の定めがなければ無効に!

2020年4月の民法改正により、「個人保証人の保護の強化」を目的として、極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効となりました(改正民法465条の2)。

入社時の身元保証契約は、従業員が会社に損害を与えた場合に本人と連帯してその賠償を行うという連帯保証契約であり、保証人にとっては、従業員がいつ、どのような責任を負うのかを予測することができないことから根保証契約に当たります。

そのため、身元保証契約を締結する際は、賠償の上限額(極度額)を定めておかなければならなくなりました。


2. 極度額の定め方

極度額の定め方については、例えば、これまでの身元保証書に極度額を追記することが考えられます。

「同人の身元を保証し、同人が貴社に損害を与えた場合、貴社が被った損害を賠償する旨を確約します(極度額○○○○円)。」

なお、実務上は、「極度額をいくらにするか」が問題となります。

損害に対するリスクヘッジという観点からは、あまりに低額にしてしまうと実効性がなくなりますし、一方、あまりに高額にしてしまうと、連帯保証人が躊躇するなど手続きが進まないおそれがあります。

具体的に金額を明記する(「極度額は1千万円とする。」など)のがベストですが、例えば「極度額は従業員の月給の○○ヶ月分とする。」などと定めることも考えられます。


3. その他の注意点

上記1.や2.以外に、身元保証契約において必ず押さえておきたい2点についてご紹介します。

(1)有効期間・自動更新

契約の有効期間は原則として3年とされており、当事者間で特に定めた場合に限り最長5年とすることが認められています。

よく誤解されているのが、自動更新についてですが、自動更新は一切認められておらず、身元保証契約を継続させたい場合は、新たに契約を結び直す必要があります。

(2)事前通知

身元保証契約に基づき保証人に損害賠償を請求するには、必ず事前(従業員に業務上不適任または不誠実な事跡があって、これがために保証人の責任を引き起こす恐れがあることを知ったとき)の保証人への通知が必要となります。

過去には、保証人へ事前に通知することなく、いきなり損害賠償を請求したケースで、当該請求が認められなかった裁判例がいくつも存在します。


4. 身元保証書の提出拒否について

それでは最後に、タイトルでもある、従業員が身元保証書の提出を拒否した場合の会社の対応について述べたいと思います。

(1)採用取り消し事由として就業規則に定めておく

従業員は、労働基準法その他の法令において、身元保証書を提出しなければならないといった義務はありません。

かといって、会社はその提出を求めてはいけないという法令もありません。

そこで、会社としては、入社時の提出書類として身元保証書を定めている場合に、その提出を拒否したときは採用を取り消すことがあるといった旨を就業規則に定めておいても問題ないと言えるでしょう。

これは、社内共通のルールを一人だけ守らないといったことを認めていては、組織としての統制がとれなくなってしまう恐れがあるからです。

(2)申立書で代用する

身元保証人は、2名(うち1名は親族、1名は親族以外で独立の生計を営む者)とするケースがよくありますが、その条件によっては、本当に然るべき保証人を立てることができないといったことも起こり得ます。

そのような場合は、保証人を立てることができない事情を記した申立書の提出をもって身元保証書の提出に代え、身元保証書を提出した者との均衡を保つといった措置をとることも考えられ、そのようにすることで、意図せぬ採用取り消しを回避することにもつながります。




出張等の残業代の取り扱い

今回は、労務管理の中でも疑問が多いであろう出張時の残業について述べていきます。

残業、すなわち時間外労働について理解するためには、そもそもの労働時間等の基本的な考え方について理解しておく必要がありますので、まずはその辺からお話を進めていきたいと思います。


1. 労働時間等の基本的な考え方

労働時間・休憩時間の基本的な考え方は次のとおりをなります。

  • 労働時間 → 使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間
  • 休憩時間 → 労働から離れることを保障されている時間

労働時間については、例えば、昼休みの強制的な来客当番・電話当番や、いわゆる”手待ち”等の拘束時間、強制参加の研修会等は使用者の指揮命令下に置かれているので労働時間に当たるとされ、また、着用を義務付けられている作業服や制服への着替えや始業前の準備、終業後の片付けなどの労働に付随する時間も労働時間に当たるとされています。

一方、出張の際の移動時間については、移動中に業務の打合せが行われたり、物品の運搬など業務の性質が含まれておらず、私的な行動がいつでも自由にとれるような状況にあれば労働時間に当たらないとされています。

ただ、いくら移動時間中は私的な行動が自由にとれるといっても、出発から帰着まで長時間に及ぶことが殆どですので、その間の補償的意味合いも含めて出張日当や出張手当が支払われることがよくあります。


2. 事業場外労働のみなし労働時間制

(1)事業場外労働のみなし労働時間制とは

事業場外労働のみなし労働時間制とは、労働者が出張など業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「特定の時間」を労働したとみなすことのできる制度のことをいいます。

例えば、労働者が出張する際は、業務に従事している時間と従事していない時間が混在し、使用者としても適正に労働時間を算定(把握)することが困難となりますので、そのような場合は、みなし労働時間制を適用した方がかえって合理的と言えます。

(2)特定の時間とは

上記(1)の「特定の時間」とは、次の3つのいずれかを言います。

① 所定労働時間

就業規則等で定められた始業時刻から終業時刻までの時間から休憩時間を除いた時間(例:1日8時間)のことで、これが一般的とも言えますが、実際に時間外労働に相当する労働があったとしても、時間外労働として取り扱われない懸念があります。

そこで、原則としては所定労働時間とみなしながらも、出張中の移動時間や所定休憩時間を除いて、なお時間外労働したことが客観的に明らかな状況が突発的に生じた場合は、当該時間を時間外労働として取り扱うのが妥当と言えるでしょう。

② 通常必要時間

事業場外の業務を遂行するために、通常、所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、その業務の遂行に通常必要とされる時間とします。

③ 上記②の場合であって労使協定した時間

②、③のときは、事業場外労働の実際に必要とされる時間を平均した時間となります。

業務の実態を踏まえて協議したうえで決めることが適当であるので、突発的に生ずるものは別として、常態として行われている場合は、できる限り労使協定を結ぶことが望まれます。

ただし、②、③のときは、労働時間の一部を事業場内で労働した場合には、その時間については別途把握しなければならず、「みなす」ことはできません。

したがって、②、③のときは、労働時間の一部について事業場外で業務に従事した日における労働時間は、「別途把握した事業場内における時間」と「みなし労働時間制により算定される事業場外で業務に従事した時間」を合計した時間となります。

(3)対象となる業務

事業場外労働のみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間の算定が困難な業務となります。

ちなみに、事業場外で業務に従事する場合であっても、次のように使用者の指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制は適用できません。

  1. 何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
  2. 情報通信機器等によって随時、使用者の指示を受けながら事業場外で労働している場合
  3. 事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けた後、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後、事業場に戻る場合


3. テレワークについて(参考)

次に掲げるいずれの要件をも満たす形態で行われる在宅勤務については、原則として、事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用されます。

  1. 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること。
  2. 当該情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
  3. 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。

ただし、例えば、労働契約において、午前中の9時から12時までを勤務時間とした上で、労働者が起居寝食等私生活を営む自宅内で仕事を専用とする個室を確保する等、勤務時間帯と日常生活時間帯が混在することのないような措置を講ずる旨の在宅勤務に関する取決めがなされ、当該措置の下で随時使用者の具体的な指示に基づいて業務が行われる場合については、労働時間を算定し難いとは言えず、事業場外労働に関するみなし労働時間制は適用されません。





働き方改革をわかりやすく解説

マスメディアを通じて”働き方改革”というワードをよく見聞きしますが、具体的にはどのようなことを指しているのか、今一つ理解が難しいのではないでしょうか・・・。

そこで今回は、働き方改革の背景や施策等について、セミナーや研修会などでお話している内容(骨子)をご紹介させて頂きます。

独自の見解になりますが、理解促進の一助となれば幸いです。


1. 働き方改革の背景 ~生産年齢人口の減少

少子高齢化の進行により、日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少し、2050年には5,275万人(2021年から29.2%減)に減少すると見込まれています。

生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されるため、現在「少子化対策」や「社会保険の適用拡大」などと共に「働き方改革」が推し進められています。

高齢化の推移と将来推計

(出典)内閣府(2022)「令和4年版高齢社会白書」

P.F.ドラッカー氏いわく人口動態は”既に起こった未来”であり、昨今、人手不足との声が各所から聞こえてきますが、むしろ本当の人手不足はこれから本格化していくものと考えられます。


2. 働き方改革の主な施策

働き方改革のポイントは、いかに労働力の不足を緩和するかで、その施策としては大きく3つに分類され、それぞれの分類の中に各個別具体策があると考えると頭の中がすっきり整理できるかも知れません。

(1)離職防止&定着率向上

  • 賃上率のアップ(2.0% → 3.0%へ)
  • 勤務間インターバル制度(終業から次の始業まで一定時間を確保する制度)の導入
  • 時間外労働の上限規制(年720時間・単月100時間未満、複数月平均80時間)
  • 年次有給休暇の時季指定義務化(年間5日)
  • パワハラ・メンタルヘルス対策の強化
  • 同一労働同一賃金

(2)働き手の確保

  • 外国人労働者の受入拡大
  • 障害者の就労支援(法定雇用率2.3% → 2026年度2.7%へ段階的引上げ)
  • 高齢者の就業促進
  • 子育て・介護等との両立支援
  • テレワーク(在宅勤務等)、副業・兼業の推進

(3)労働生産性の向上

  • デジタル化の推進・押印省略 etc.




1年変形の残業代

今回は、1年単位の変形労働時間制(以下、「1年変形」といいます)を採用する場合の残業代の計算方法をはじめとして、その他に注意しておきたい点について解説します。

1年変形の仕組み、メリット・デメリット等は厚生労働省のパンフレットなどでご確認いただけるとして、この記事では実務において見逃しがちで、特に注意しておきたい点についてまとめてみましたので、ぜひご一読いただければ幸いです。


1. 残業代の計算方法

(1)1日の法定時間外労働

労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間(MAX10時間)、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

(2)1週の法定時間外労働

労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週はその時間(MAX52時間)、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(上記(1)で時間外労働となる時間を除く)

(3)対象期間の法定時間外労働

対象期間の法定労働時間総枠(40時間×対象期間の暦日数÷7)を超えて労働した時間(上記(1)または(2)で時間外労働となる時間を除く。)


2. 途中採用者・途中退職者等の取り扱い

対象期間より短い労働をした者に対しては、使用者はこれらの労働者に実際に労働させた期間を平均して週40時間を超えた労働時間について、割増賃金を支払う必要があります。

割増賃金の清算を行う時期は、次のとおりとなります。

  • 途中採用者→対象期間が終了した時点
  • 途中退職者→退職した時点

また、転勤等により対象期間の途中で異動がある場合についても清算が必要になることがあります。

<割増賃金を支払う時間の計算式>

下記1.-2.-3.

  1. 実労働期間における実労働時間
  2. 実労働期間における法定労働時間の総枠「(実労働期間の暦日数÷7日)×40時間」
  3. 実労働期間における 上記1.(1)、(2)の時間外労働


3. その他の注意点

(1)労働日数の限度

1年変形の対象期間における労働日数の限度は、原則として1年間に280日となります。(*対象期間を3ヶ月以内とする場合は制限がありません。)

(2)連続労働日数

1年変形を採用する場合、連続して労働できる日数は「最長6日(6連勤)」までとなります。ただし、特定期間(特に業務が繁忙な期間)を設定すれば、1週間に1日の休日が確保できる日数「最長12日(12連勤)」とすることができます。

(3)休日の振替

通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用できませんが、労働日の特定時に予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行う場合には、次の要件を満たしていなければなりません。

  1. 就業規則で休日の振替がある旨規定を設け、あらかじめ休日を振り替えるべき日を特定して振り替えること
  2. 対象期間(特定期間を除く)において、連続労働日数が6日以内となること
  3. 特定期間においては、1週間に1日の休日が確保できる範囲内(連続労働日数が12日以内)にあること

また、例えば、同一週内で休日をあらかじめ8時間を超えて労働を行わせることとして特定していた日と振り替えた場合については、当初の休日は労働日として特定されていなかったものであるため、当該日に8時間を超える労働を行わせることとなった場合には、その超える時間については時間外労働とすることが必要となります。


4. 東京労働局パンフレット(参考)

以上のように1年変形においては細かなルールが数多くありますが、東京労働局のパンフレット(導入の手引)が詳しく説明されていますので、より理解を深めたい方は下図をクリックして是非ご参照ください。




1年変形のカレンダー(例)

1年単位の変形労働時間制(以下、「1年変形」といいます)とは、繁忙期に合わせて休日数を調整(繁忙期→休日減、閑散期→休日増)しながら、1年を平均すれば1週当たり所定労働時間が40時間以内に収まるようにする制度です。

ただ、繁忙期の有無にかかわらず、1週でも週所定労働時間が40時間を超える週があれば、その週は直ちに法令違反となってしまいますので、1年変形を採用しなければならなくなるケースもあります。

いずれにしても、1年変形を採用するには所轄労働基準監督署に届出が必要で、その際に添付するカレンダーの作成方法についてのご質問が多く、今回はその辺のポイントについて述べてみます。


1. 統一の「年間休日カレンダー」を作成する方法

製造業によく見られる最も一般的な方法で、下図のような会社で1つ(もしくは部門別に数パターンに分けるケースもある)の年間休日カレンダーを作成する方法です。

年間休日カレンダー


2.「月別所定休日一覧表+月別休日管理表」を作成する方法

主に小売業やサービス業では、一斉に休日を取得することができず、シフト制により交替で休日を取得ケースが多々あります。

その場合、休日数は同じでも具体的な休日は個人別に異なってきますので、上記1.のような年間カレンダーでは実態と乖離してしまいます。

そのような場合は、「(1)月別所定休日一覧表」において1年分の月別の休日数を定めておき、「(2)月別休日管理表」で個人別に具体的な休日を管理するのが有効な手法と言えます。(*書式名は法定のものではありませんので、任意に変更しても大丈夫です)

労働基準監督署へは、例えば、4月始まりの会社等であれば「(1)+(2)の4月分」を添付書類として提出することとなります。

(1)月別所定休日一覧表

年月 歴日数 所定休日数 内)法定休日 所定労働日数 所定労働時間
2023年4月 30日 8日 5日 22日 176:00
5月 31日 9日 4日 22日 176:00
6月 30日 6日 4日 24日 192:00
7月 31日 9日 5日 22日 176:00
8月 31日 12日 4日 19日 152:00
9月 30日 9日 4日 21日 168:00
10月 31日 8日 5日 23日 184:00
11月 30日 8日 4日 22日 176:00
12月 31日 9日 5日 22日 176:00
2024年1月 31日 10日 4日 21日 168:00
2月 29日 8日 4日 21日 168:00
3月 31日 9日 5日 22日 176:00
366日 105日 52日 261日 2088:00
1日所定労働時間8時間の場合

月別の休日数は年間105日を下回らない限り、自社の繁閑に合わせて調整可能です。(*上記はあくまで一例です)

上記(1)の例では1週平均39:57(=2088:00÷(365÷7))となります。

(2)4月度休日管理表

4月は8日の所定休日数と設定しているので、これを個人別に割り振り、5月以降も毎月同じ作業(月別に設定した所定休日数を個人別に割り振る)を行います。

月日 曜日 Aさん Bさん Cさん Dさん
4月1日
2日
3日
4日 有休
5日
6日
7日
8日
9日
10日
11日
12日 有休
13日
14日
15日
16日
17日
18日
19日
20日 有休
21日
22日
23日
24日
25日 有休
26日
27日
28日
29日
30日
休日計
休日計は有休を除く




障害者雇用納付金制度とは

今回は障害者雇用の基礎知識として、障害者雇用率と障害者雇用納付金制度についてご紹介します。


1. 障害者雇用率(原則)

2021(R3)年3月1日から民間企業の障害者雇用率は2.3%と定められています。(*一部の業種では”除外率”が適用される場合があります。)

そして、障害者のカウント方法は週所定労働時間、障害の種類、程度等によって次のようになっています。

週所定労働時間 30時間以上 20時間以上30時間未満
身体障害者
(重度)

(2)
0.5
(1)
知的障害者
(重度)

(2)
0.5
(1)
精神障害者 0.5※

※精神障害者である短時間労働者で、下記1.かつ2.を満たす方については、1人をもって1人とみなされます。

  1. 新規雇入れから3年以内の方又は精神障害者保健福祉手帳取得から3年以内の方
  2. 令和5年3月31日までに、雇い入れられ、精神障害者保健福祉手帳を取得した方


2. 障害者雇用納付金制度

常用雇用労働者数が100人を超える事業主は障害者雇用納付金の徴収や、逆に調整金の支給対象となり得ます。また、100人以下であっても奨励金の支給対象となることがあります。

下図は、令和5年度版の案内パンフレット(抜粋)ですが、クリックすると制度内容の詳細や申告手続についてご確認いただけますので、今後、対象となりそうな事業主様におかれましては、一度ご確認されることをお勧めいたします。

障害者雇用納付金制度




経歴詐称と既往症の申告義務

今回は、時々ご相談を受ける”経歴詐称”について解説いたします。


1. 経歴詐称について

経歴詐称でいう経歴の範囲は、一般的には学歴、職歴、免許・資格、犯罪歴などが挙げられます。

これらの経歴を入社前の面接などで偽って入社し、後でその事実が発覚すると、就業規則において経歴詐称を懲戒解雇事由として定めている会社では、懲戒解雇とする場合があります。

経歴詐称については、これまでにも幾多の裁判で争われてきましたが、『(独)労働政策研究・研修機構』ではそのポイントについて次のようにまとめており、参考になると思われます。

  1. 雇用関係は、労使の信頼関係を基礎とする継続的な関係であるから、使用者は、雇用契約において、労働者に、労働力評価に関わる事項だけではなく、企業秩序の維持に関係する事項の申告を求めることができる。
  2. 雇用契約の締結に際し、使用者が、必要かつ合理的な範囲において、労働力の評価に関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項の申告を求めた場合には、労働者は、信義則上真実を告知しなければならない。
  3. 最終学歴は、労働力の評価だけでなく企業秩序の維持にも関わる事項であるから、学歴を高く偽るだけでなく、低く偽ることも経歴詐称に当たり、懲戒処分の対象となる。
  4. 履歴書の賞罰欄における「罰」とは、一般には確定した有罪判決を指すため、公判係属中の事実については、特に申告を求められない限り、労働者はこれを告知する必要はない。


2. 既往症の申告義務について

既往症とは過去に罹った病気のうち既に完治したものをいい、既往歴とは過去に罹った病歴のことをいいます。(本記事においては厳格に区別せず、ほぼ同義として使います。)

労働者の既往症については、個人情報保護法における要配慮個人情報に当たるため、使用者側としては必要かつ合理的な理由がなければ、採用面接時に聞くことはできないとされています。

例えば、自動車の運転を伴う業務で”てんかん”の発作が過去に起きたことがないか聞くことや、また、その他にも業務内容によっては色覚・聴覚・味覚等の異常が業務に支障をきたすおそれがあれば、これらについて採用面接時に質問の主旨をきちんと応募者に伝えたうえで、病名を特定して既往歴がないか聞くことは、問題ないと言えるでしょう。

つまり、漠然と病歴について質問するのはNGですが、採用後に業務を円滑に遂行できるか否かについて必要最小限で確認するのはOK(必要かつ合理的な理由に当たる)と考えられます。

なお、労働者(応募者)側からすると、既に完治しており業務に支障をきたすおそれのない病歴については、あえて積極的に使用者側に申告する義務はないと考えられますが、使用者側には安全配慮義務がありますので、ただちに業務に支障はないものの、場合によっては支障が生じる可能性があるのであれば、入社後に問題とならないよう採用面接時に伝えておいた方がよい場合があるかも知れません。




算定基礎届チェックリスト

毎年7月1日~7月10日の間に提出する算定基礎届においては、様々な注意点があります。

書類作成や届出までの進め方については、各種案内等をご参照いただくとして、ここでは届出前に、最終的にチェックしておきたいポイントについてご紹介いたしますので、ご参考となれば幸いです。


  1. 月給者、日給者、時給者の把握はできているか
  2. パート扱いの人の把握はできているか
  3. 算定基礎届を行う人、行わない人の把握はできているか
  4. 70歳以上の人、75歳以上の人の把握はできているか
  5. 過去の月額変更届の漏れはないか
  6. 4月~6月に社会保険に加入した人の把握はできているか
  7. 4月・5月の月途中入社の人で、入社月の給与が1ヶ月分の給与が支給されていない場合、翌月以降を算定対象月としているか
  8. 4月~6月の給与に4月~6月以外の給与が含まれていないか
  9. 過去1年間の給与平均と4月~6月の給与平均に大きな差はないか
  10. 1ヶ月だけ極端に給与が増えている、または減っている場合、その理由は把握できているか
  11. 出勤日数、有休日数、欠勤日数の把握はできているか
  12. 基礎日数は確認できているか
  13. 病気欠勤等で4月~6月の3ヶ月間に報酬を全く受けていない人はいないか
  14. 4月~6月の間に休業はないか
  15. 現物給与(食事、住宅、定期券等)はないか
  16. 定期代の支給単位が何ヶ月か把握できているか
  17. 報酬等級に変更がある場合、なぜ変更されるかの理由を把握できているか
  18. 2ヶ所以上から給与を受けている人はいないか
  19. 7月に月変(随時改定)となる人をチェックしたか
  20. 8月および9月に月変(随時改定)となる人の把握はできているか
  21. 備考に記載しなければいけない情報を全て記載しているか



明示すべき労働条件の追加

2024年4月から労働者の募集の際などにおける明示すべき労働条件が追加されます。

追加される明示事項3つは、労働基準法に基づく、採用の際に締結する労働契約における明示義務と同様の改正で、募集~採用にかけて一貫性がなければ、後のトラブルの原因となりかねませんので注意が必要です。

以下、リーフレットをご参照ください。


労働条件の明示①
労働条件の明示②



特別講演を行いました

2023年7月1日(土)顧問先様(奈良県・製造業)の社内行事の中で、『人事労務管理の重要性』をテーマに、特別講演を行わせて頂きました。

人事労務管理の目的の変化、働き方改革の背景や意味、IPOへの取り組みが社内にどのような好影響を与えるのか等について、早朝から約1時間にわたってお話させて頂きました。

テーマが大きく何に重きをおいてお話すべきか悩みましたが、参加者の皆様(約100名?)には熱心に聞き入って下さり大変感謝しております。

同社は、地元を代表する老舗企業で、これから株式上場への準備が本格化していくところですが、先般も弊所の別の顧問先様が見事に上場を果たされておりますし、そうしたサポート経験もフルに活用しながら、あらためて尽力したいと気を引き締めているところです。

ちなみに、”組織活性化とは、従業員の皆が同じ目標に向かって一致団結している状態をいいます”との言葉が、皆様の心に響いたのではないかとの感想を頂戴しました。




労災による通院時間

今回は、労災によって通院する時間は労働時間として取り扱うべきか否かについて解説いたします。


1. 通院時間の取り扱い

業務時間内に通院する時間は、たとえそれが労災による傷病の治療を目的としたものであったとしても、事業主の支配下にある時間とは言えませんので、労働時間には当たりません。(労働時間として取り扱わなければならないとする法令等の根拠はありません)

したがって、通院に要する時間分の賃金を控除しても『ノーワーク・ノーペイの原則』により、法令違反とはなりません。

ただし、傷病の原因がそもそも”労災”であるという事情を考慮して、賃金を控除しないとしても、それは法令を上回る労働者に有利な取り扱いとなりますので、問題ないと言えるでしょう。


2. 休業補償給付について

通院によって、その時間分の賃金が控除された場合に休業補償給付は支給されるのかといったご質問を受けることがありますが、休業補償については、また別の問題となります。

労災による休業補償給付の原則的な支給要件は次の通りとなります。

  1. 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため
  2. 労働することができないため
  3. 賃金を受けていない

という3要件を満たす場合に、その第4日目から、休業(補償)給付と休業特別支給金が支給されます。

  • 休業(補償)給付=(給付基礎日額の60%)×休業日数
  • 休業特別支給金=(給付基礎日額の20%)× 休業日数

なお、休業の初日から第3日目までを待期期間といい、この間は業務災害の場合、事業主が労働
基準法の規定に基づく休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行うこととなります。(副業・兼業していた場合は、これと異なることがありますのでご注意ください)

また、通院のため、労働者が所定労働時間のうち一部を休業した場合は、給付基礎日額から実際に労働した部分に対して支払われる賃金額を控除した額の60%に当たる額が支給されることとなります。

つまり、通院時間がある程度長時間に及んで控除額が大きくなった場合(実働賃金が給付基礎日額を下回った場合)、上記の3要件を満たしていれば、休業補償給付が支給される可能性があります。

もっとも、出勤している時点で、「2. 労働することができないため」という医師の証明が得られるかが問題となりますが。

いずれにしましても、その他ご不明点などございましたら下記パンフレットをご参照いただければ幸いです。


休業補償給付