1年変形の残業代

今回は、1年単位の変形労働時間制(以下、「1年変形」といいます)を採用する場合の残業代の計算方法をはじめとして、その他に注意しておきたい点について解説します。

1年変形の仕組み、メリット・デメリット等は厚生労働省のパンフレットなどでご確認いただけるとして、この記事では実務において見逃しがちで、特に注意しておきたい点についてまとめてみましたので、ぜひご一読いただければ幸いです。


1. 残業代の計算方法

(1)1日の法定時間外労働

労使協定で1日8時間を超える時間を定めた日はその時間(MAX10時間)、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

(2)1週の法定時間外労働

労使協定で1週40時間を超える時間を定めた週はその時間(MAX52時間)、それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間(上記(1)で時間外労働となる時間を除く)

(3)対象期間の法定時間外労働

対象期間の法定労働時間総枠(40時間×対象期間の暦日数÷7)を超えて労働した時間(上記(1)または(2)で時間外労働となる時間を除く。)


2. 途中採用者・途中退職者等の取り扱い

対象期間より短い労働をした者に対しては、使用者はこれらの労働者に実際に労働させた期間を平均して週40時間を超えた労働時間について、割増賃金を支払う必要があります。

割増賃金の清算を行う時期は、次のとおりとなります。

  • 途中採用者→対象期間が終了した時点
  • 途中退職者→退職した時点

また、転勤等により対象期間の途中で異動がある場合についても清算が必要になることがあります。

<割増賃金を支払う時間の計算式>

下記1.-2.-3.

  1. 実労働期間における実労働時間
  2. 実労働期間における法定労働時間の総枠「(実労働期間の暦日数÷7日)×40時間」
  3. 実労働期間における 上記1.(1)、(2)の時間外労働


3. その他の注意点

(1)労働日数の限度

1年変形の対象期間における労働日数の限度は、原則として1年間に280日となります。(*対象期間を3ヶ月以内とする場合は制限がありません。)

(2)連続労働日数

1年変形を採用する場合、連続して労働できる日数は「最長6日(6連勤)」までとなります。ただし、特定期間(特に業務が繁忙な期間)を設定すれば、1週間に1日の休日が確保できる日数「最長12日(12連勤)」とすることができます。

(3)休日の振替

通常の業務の繁閑等を理由として休日振替が通常行われるような場合は、1年単位の変形労働時間制を採用できませんが、労働日の特定時に予期しない事情が生じ、やむを得ず休日の振替を行う場合には、次の要件を満たしていなければなりません。

  1. 就業規則で休日の振替がある旨規定を設け、あらかじめ休日を振り替えるべき日を特定して振り替えること
  2. 対象期間(特定期間を除く)において、連続労働日数が6日以内となること
  3. 特定期間においては、1週間に1日の休日が確保できる範囲内(連続労働日数が12日以内)にあること

また、例えば、同一週内で休日をあらかじめ8時間を超えて労働を行わせることとして特定していた日と振り替えた場合については、当初の休日は労働日として特定されていなかったものであるため、当該日に8時間を超える労働を行わせることとなった場合には、その超える時間については時間外労働とすることが必要となります。


4. 東京労働局パンフレット(参考)

以上のように1年変形においては細かなルールが数多くありますが、東京労働局のパンフレット(導入の手引)が詳しく説明されていますので、より理解を深めたい方は下図をクリックして是非ご参照ください。